実は金融危機は怖くない その3

③国民による新憲法づくり

さまざまなインタビューを見ると、一連の経済危機の中でアイスランドの市民が感じたのは、「社会システムそのものが終わりを迎えた」ということでした。そして、再びこうした事態にならないように、根本から社会の仕組みをつくり直す必要があるという認識に多くの人がいたります。そもそもアイスランドの憲法はデンマークから独立した際、そこからコピーをしてつくられたものでしたが、危機をきっかけに社会の仕組みを再構築するために新しい憲法を自分たちの手でつくろうという意見が出てきます。そして、市民と政府の話し合いが重ねられた結果、2年ほどして議会と政府は市民が憲法を作ることを認めます。

それを受けて、まず千名による国民会議が開催されました。その千名は、まったく無作為に選ぶという方法で選ばれたのですが、それもまたカナダの例を参考に市民が提案したものでした。カナダのブリティッシュ・コロンビア州では、新しい選挙法をつくるために一般市民からランダムに160名を選んで評議会をつくったのですが、それは、無作為に選ばれた人の方が、特定の集団の利益のためではなく、より大きな善のために働くという社会学的研究に基づいたものでした。「群集より上手に問題を解決できる個人はいない」という考えが根底にあります。

そうして選ばれた人たちの話し合いの中で、憲法評議会の骨格が作られました。新憲法作成に携わりたい国民は、30名の推薦人を集めて立候補し、タウン・ミーティングで自分の考えを発表することができます。結局、あらゆるジャンルの人々が憲法づくりに名乗りを上げて、全部で525名が立候補し、その中から投票の結果25名が選ばれました。2012年4月に憲法評議会はスタートし、4ヶ月間の徹底した話し合いを経て新憲法の草案が完成しました。この作成過程はインターネットで公開され、アイスランド国民から膨大な意見が寄せられる中で条文が集約されていきました。この様子はアメリカのドキュメンタリー映画「BLUEBERRY SOUP」の中に詳しく紹介されていますが、こうして市民が意見を寄せ合って憲法をつくるというのは過去にほとんど例がなく、結果としてアイスランド国民だけではなく世界中から意見が寄せられ注目を集めることになります。映画の中で、外国から寄せられたあるメッセージが紹介されています。

「あなた達は国をつくっているだけじゃなく歴史をつくっています。世界中の多くの人があなたたちの先例から学んでいます。」

 

④一筋縄にはいかない

アイスランドの議会は「アルシング」と呼ばれ西暦930年に始まった世界最古の民主議会です。その最初の議会が行われた場所は、レイキャビクから東に約50キロにあるシングヴェリトル国立公園にあるログベルグという岩の周辺でした。今回、そこも訪問しましたが、ちょうどその場所は、北米プレートとユーラシアプレートの境界で、地球の割れ目「ギャオ」と呼ばれています。「アルシング」とは全島集会という意味ですが、初めての開催で、「アイスランドは王ではなく、法によって統治される」という宣言がなされています。現在は、レイキャビクの中心部の広場に隣接する小さなグレーの石造りの建物が議事堂であり、議会は一院制で定数は63名、4年毎に改選されます。

2013年4月に行われた選挙では、再び独立党が勢力を取り戻し右派に政権が戻っています。ちょうど日本と似たような流れになっているのです。市民運動の人たちは、2009年、首相が突然辞任して総選挙が急遽行われるなかで4名の当選者を出しましたが、2013年の選挙では、分裂して小党乱立してしまった結果、10%近い死票を出しています。アイスランドの選挙法では、総得票が5%に満たない政党には議席が配分されないのです。マルグレットさんもそうして敗れた一人でした。破綻から経済が急速に回復した結果、保守政党に再び資金が流れて、彼らがマスメディアに影響を行使し、対抗勢力の分断をはかって、争いが絶えなくなってしまったと説明してくれました。こうした状況下で市民がつくった新憲法は今だに発効していません。ドキュメンタリー「Pots, Pans and Other Solutions」の中のインタビューでは、「国会議員達は、新憲法をまるで自分達への退職勧告だととらえている」と話していますが、それは以下の新憲法案の第50条を見てもよくわかります。市民は「汚職の起こらない仕組み」を考えて憲法に盛り込んでいるのです。日本のように族議員が利権を求めてはびこる余地をなくしています。

国会議員は自ら又は近親者に実質的に関連する事項につき審議に参加してはならない。国会議員の資格は法律により定める。国会議員の資格を持たないものが採決に参加したことを以て成立した法律の効果は失われない。

国会議員の自らの財務上の利害関係に関する情報を提供する義務は、法律により定める。

さらに、アイスランドの新憲法案の直接民主制に関する条項は以下のとおりです。

第65条 有権者の10パーセントは国会で成立した法律に対して国民投票を要求することができる。この要求は、法律の成立から3ヶ月以内に提示されなければならない。有権者がそれを拒否した場合、法律は無効となるが、そうでなければ、有効となる。国会は、国民投票が実施される前に、その法律を無効にできる。

投票は、投票者の要求が発表された時から1年以内に行わなければならない。

第66条 有権者の2%は国会に議案を提示することができる。有権者の10%は、国会に法案を提示することができる。国会は別の法案として対案を提示することができる。有権者の法案が撤回されなければ、それは、提出された国会の法案と同様に国民投票に付されなければならない。国会は、その国民投票が拘束的でなければならないと決めることができる。

有権者によって提案された法案の採決は、国会に提出されてから2年以内に行わなければならない。

マルグレットさんに「私達の国では歴史上一度も国民投票が行われたことがありません。どんなに署名を集めても、どんなに沢山の人がデモに行っても、政府はそれを完全に無視するだけです。本当に直接民主の制度が必要です。」と話したら、「ええ、あなたの国だけじゃなく、直接民主は世界中で必要です」と答えました。こうした条文が盛り込まれるだけで社会がどれほど変わるのかを想像していただきたいと思います。

アイスランドも再び右派政権に戻りましたが、現在、世論調査で支持率が1位なのは国会で3議席しかもたない海賊党となっていて、国民が今の政権を支持しているわけでは決してないことは明らかです。来年行われる総選挙では、また大きな変革が起こるに違いありません。そのうねりの中で、市民のつくった新憲法が新しい社会の扉を開いていくでしょう。

以下時折引用しますが、ここで日本の抱える債務の状況を確認したいと思います。

IMFは日本の債務残高が2009年度末でGDPの217%に達し、これは日本が太平洋戦争で多額の借金を抱えた1949年の水準を上回る状態になっているという衝撃的な事実を発表しました。しかも、このまま日本が国債の発行を続けていると2016年には、第二次世界大戦直後の英国を抜いて、統計で確認できる1875年以降で先進諸国史上最悪の財政状態になるということを明らかにしました。

現政権のスタート時から私はその経済政策については、多少の資産バブルは起こるものの新自由主義政策によって、国民の所得は減って貧困が増え、やがて債務問題が危機的状況を向かえるといい続けてきました。3年が経過し、いよいよその状態が鮮明になっています。歴史的な低金利が続いているお陰でクローズアップされていませんが、この国はすでに先進国史上最悪の財政状態になっていることを再認識する必要があります。

この問題が一挙に噴出す日はそう遠くなく、まさに時間の問題といって間違いないでしょう。この日本が抱えた借金の原因は、規律がない、だらしなくなあなあな運営をしたために自然に積みあがってしまったというよりは、この国を破綻させたい人たちの意志によって計画どおりに進められたと私は思います。

かつて石巻で震災復興のお手伝いをしている際、被災者にこう尋ねたことがありました。

「もし津波がくると事前に知っていたらできることありましたか?」

その人は答えました

「うーん、よく考えてみると、ほとんどなかったと思う」

大事なことは、起こった時に私たちがどう対処するかです。その答えは、この原稿の中にあります。破綻の責任者たちを「粛々と」処罰し、債権者ぶった人たちの脅しに決して屈せず、国民生活の保護を第一として事に当たればよいのです。きっと、社会は速やかに再建されるでしょう。そして、それをきっかけに普通の人たちが寄り合って話し合いを重ね、望む社会をデザインして、それを実現すればよいのです。

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