国民投票のすばらしさ


昨年の6月初めて国民投票を見にスイスのバーゼルに行きました。投票日にはパーティがあって、エノ・シュミットさんが招待してくれるというので日本酒をもっていきました。

 

私は日本の選挙については自分で出たことも含めて一時期いやというほど直接的に関与してきました。だからその世界は本当によく知っているつもりで、もちろん負けた候補者の事務所の重苦しく悲しい空気も何度となく味わっています。

 

ご存知のように史上初のベーシックインカムの国民投票の結果は世界に配信されたとおり賛成が約23%で否決されました。その結果は事前の予想よりやや良かったものの、否決されたことには変わりありません。だからそこには私の経験の中にある敗れた選挙事務所の空気が漂っていて不思議はないのです。

 

当日、事務所周辺には朝からテレビカメラや記者がたくさん集まり、となりの広場には飾り付けが施され、出店が並んでにぎやかです。木陰に輪になって座ってこの国民投票について皆で討論もしています。私は広場にだされた椅子に腰かけてたまたま隣り合わせた女性に声を掛けてみました。

「みんな最初は彼らは火星から来たの?って言ってました。それぐらいとんでもないイニシアチブだと思っていたんだけど、ダニエル・ハニのチームはプレゼンテーションがとても上手で、やがてよく考えれると決して不可能なことじゃないって思い始めました。そして今ではたくさんの人がしっかり理解しています。投票の結果はどうであれ、今日は歴史的な日だからこうやって会場に来たの」

 

しばらくして開票が始まり、州ごとの得票が発表されるにつれて歓声があがります。通りでは弦楽器で重奏している人たちや大道芸人もいて、集まった人にはシャンパンが無料でふるまわれます。やがて全体の投票結果が判明すると、拠点となったカフェに大きく数字が張り出され、紙吹雪が飛ぶ中で大きな歓声と拍手がおこりました。バーゼルの街全体が温かい祝福の空気に包まれている気がしました。

 



そもそもこのイニシアチブはエノ・シュミットさんとダニエル・ハニさんが2人で始めたのです。まずベーシックインカムに関するしっかりとした映画をつくり、それが多くの共感をよび、草の根からたくさんの寄付が集まり、キャンペーンが大きく広がっていきました。そして、10万人の署名を集めて政府に提出するときには、スイスの人口にあわせた800万枚の金貨を国会前の広場に敷いてアピールし、国民投票の直前には、ジュネーブの広場でギネスブックに登録された世界で一番大きいポスターを掲げます。そこに書かれたのは

WHAT WOULD YOU DO IF YOUR INCOME WERE TAKEN CARE OF?(もし収入が保障されたら、あなたは何をしますか?) 同じメッセージは世界をカバーするようにベルリンのブランデンブルグ門の前の大通りやニューヨークのタイムズスクエアの電光掲示板に掲げられました。サイズが世界一なだけじゃなく、テーマも一番大きいのです。

 


私が初めてバーゼルを訪れてシュミットさんの話を聞いたのはちょうどパリで大きなテロがあった日でした。一人の国民が奮起したら憲法が改良できる社会、本当に違う星にいるんじゃないかという感覚に包まれました。その中で、普通の市民たちが、しっかりと長期的展望にたって、着実な地歩を歩んでいく。人間の歴史の中で徐々に普及していった普通選挙や女性参政権、社会保障の整備、そういう社会の進歩の延長線上として、おカネのための労働が必須の世界からの解放に向けて着実な歩を進めていく。もちろん一筋縄で行くはずなどないのだけど、それは真の人間性の充足のために必ずたどり着く道だし、社会はそう進化ししなければいけない。キャンペーンを見てもわかるように本当にこのプロジェクトには多くの寄付が集まったそうですが、それは決して目先の自分の収入につながるからというわけではなく、将来の世代にいい社会を残そうという人々の思いの結集だと思います。


人を選ぶ選挙というのは、勝つために過度な自己PRや相手を蹴落す言動をしがちですが、大きなテーマで賛否を問う国民投票は特定の人たちの利害と直接結び付きにくいし、何よりも国民が決めて結果責任を国民が負うという清々しさがあります。


一度も国民投票の経験がない日本というのは世界の先進国の中で稀有な存在です。にもかかわらず漠然とネガティブなイメージで報道されがちなのがとても残念ですが、本来、国民投票は、民主主義社会の最終意思決定の手段として、とても良いもの、素晴らしいものだと思います。


私たちの国にとっても、本当にさまざまな問題を抱えてますが、それをひとつひとつ乗り越えて社会を進化させるために、こういう制度が何よりも大事だと思うのです。


コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

ささきのコジロー

Author:ささきのコジロー
商社・コンサルタント会社・デベロッパー・環境団体・政党などをわたって会社つくりました。少し物書きもしてるだワン!

最新記事
カテゴリ
レファレンダム・イニシアチブ
e-book
月別アーカイブ
検索フォーム
QRコード
QR